1次元のadaptive dynamics理論

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Table of Contents

1 仮定

2 侵入適応度(invasion fitness)

2.1 定義

侵入適応度は以下のように定義されます(Metz et al., 1996)。
野生型x°に対する変異型野生型xの侵入適応度f(x’, x°):単型の野生型x°からなる集団の個体数密度n°が平衡個体数密度°にあるとき、出現した変異型xの初期増加率。
すなわち変異型xの個体数密度をnとして
(1) f(x’, x) = limn’ → 0(1)/(n)(dn)/(dt)n° = °.
野生型は平衡密度にあるので常にf(x°, x°) = 0です。
f(x’, x°)は野生型x°の存在下における、形質空間の任意の位置の変異型xの侵入適応度を与えるという意味で、「野生型x°の存在下における適応度地形」とみなすことができます。この適応度地形はx°に依存して形が変化します。

2.2 形質置換連鎖(trait substitution sequence)

出現した変異型の侵入適応度が正であるとき(f(x’, x°) > 0)、その変異型は野生型に侵入可能であり、侵入した変異型は個体数動態を通じて野生型を駆逐し、変異型が次の平衡状態の野生型となることが多いです(Fig.1)。特別な場合には、変異型と野生型が共存したり、共に絶滅したり、野生型だけが残ることもあります。変異型の侵入が繰り返されることによる野生型の遷移を trait substitution sequence と呼びます(Metz et al. 1996)。ここでは「形質置換連鎖」と呼ぶことにします。
figure images/resident_and_mutant.png
Figure 1 形質置換連鎖(trait substitution sequence)

3 方向進化(directional evolution)

形質置換連鎖による集団の方向進化は、野生型の位置の適応度勾配(fitness gradient)
(2) g(x°) = (f(x’, x°))/(x)x’ = x°
に比例します(Fig.2)。方向進化の期待速度は以下の式により近似的に与えられます(Dieckmann and Law, 1996):
(3) (dx°)/(dt) = (1)/(2)μσ2μ°g(x°).
ここでμは突然変異率(1出生あたり)、σμは突然変異の規模(標準偏差)。進化の方向は量的遺伝学におけるLandeの式やPrice方程式と同じですが、速さは異なります。
figure images/resident_only.png   
Figure 2 侵入適応度と方向進化

4 進化的特異点

4.1 進化的特異性(evolutionary singularity)

方向性選択が0になる点を進化的特異点(evolutionarily singular point)と呼びます(Metz et al., 1996)。すなわち、点xが進化的特異点であるとき、
(4) g = g(x) = 0.

4.2 進化的特異点の分類

4.2.1 収束安定性(convergence stability)

進化的特異点xが以下の条件を満たす時、xを収束安定点(Eshel, 1983)と呼びます。
(5) C = (g(x°))/(x°)x° = x < 0.
すなわち、x° < xのときg(x°) > 0x° > xのときg(x°) < 0となるので、集団が単型である限り点xに向かって方向進化し続けます。また、このCは以下のように変形できます。
(6) C = (2f(x’, x°))/(x2)x’ = x° = x + (2f(x’, x°))/(x’∂x°)x’ = x° = x.

4.2.2 進化的安定性(evolutionarily stability)

進化的特異点xが以下の条件を満たす時、xを進化的安定点(Maynard Smith and Price, 1973)と呼びます。
(7) D = (2f(x’, x°))/(x2)x’ = x° = x < 0.
この条件は、集団がxに居るときに、周囲の適応度地形が山形になっていることに対応します。
このDが正の場合は谷型の地形に対応します。

4.2.3 相互侵入可能性(mutual invasivility)

進化的特異点xが以下の条件を満たす時、xを相互侵入可能(Prout, 1968)であると表現します。
(8) M = (2f(x’, x))/(x’∂x°)x’ = x° = x < 0.
M, D, C − M = D − Cの関係にあります。

5 進化的分岐点(evolutionary branching point)

xが進化的に不安定な収束安定点であるとき(すなわち以下の3条件を全て満たすとき)、xを進化的分岐点と呼びます(Metz et al., 1996; Geritz et al., 1997)。
(9) g = g(x) = (f(x’, x°))/(x)x’ = x° = x = 0.( 進化的特異性)

(10) C = (g(x°))/(x°)x° = x = (2f(x’, x°))/(x2)x’ = x° = x + (2f(x’, x))/(x’∂x°)x’ = x° = x < 0. (収束安定性)

(11) D = (2f(x’, x°))/(x2)x’ = x° = x > 0. (進化的不安定性)

6 適用例:資源競争モデル

6.1 個体数動態モデル

ここではロトカ・ヴォルテラの資源競争モデルを考えます。
(12) (dni)/(dt) = ni1 − (1)/(K(xi))Nj = 1α(xj − xi)nj
(13) K(xi) = K0exp − (x2i)/(2σ2K)
(14) α(xi) = exp − ((xj − xi)2)/(2σ2α)
このモデルはMacArthur-Levins資源競争モデルと呼ばれています。

6.2 侵入適応度

単型x°の集団を考えると、その密度x°の動態は式(12)を用いて以下のようになります。
(15) (dn°)/(dt) = n°1 − (n°)/(K(x°))
従ってその平衡密度は° = K(x°)です。変異型xが出現したとき、その密度の動態は式(12)を用いて以下のようになります。
(16) (dn)/(dt) = n1 − (n’ + α(x’ − x°)n°)/(K(x’))
従って侵入適応度は以下のようになります。
(17) f(x’, x°) = limn’ → 0(1)/(n)(dn)/(dt)n° = ° = limn’ → 01 − (n’ + α(x’ − x°)K(x°))/(K(x’)) = 1 − (α(x’ − x°)K(x°))/(K(x’)).

6.3 方向進化

g(x°)  =  (f(x’, x°))/(x)x’ = x°  =   − K(x°)(α(x’ − x°))/(x) (1)/(K(x’)) − α(x’ − x°)(1)/(K(x’))(∂lnK(x’))/(x)x’ = x°  =  (∂lnK(x°))/(x°)  = ()/(x°)  − (1)/(2)σ − 2Kx°2 =  − σ − 2Kx°
従って、進化的特異点x = 0が存在する。xにおいて、
(18) C = (g(x°))/(x°)x° = x =  − σ − 2K
であるからこの点は収束安定点。さらに、
D  =  (2f(x’, x°))/(x2)x’ = x° = 0  =   − K(x°)()/(x)(α(x’ − x°))/(x) (1)/(K(x’)) − α(x’ − x°)(1)/(K(x’))(∂lnK(x’))/(x)x’ = x° = 0  =   − K(x°)(2α(x’ − x°))/(x2) (1)/(K(x’)) − α(x’ − x°)(1)/(K(x’))(2lnK(x’))/(x2)x’ = x° = 0  =  −  (2α(x’))/(x2)x’ = 0 + (2lnK(x’))/(x2)x’ = 0  =  σ − 2α − σ − 2K = ((σK + σα)(σK − σα))/(σ2ασ2K).
従って、σK > σαのとき、x = 0は進化的分岐点である。(σK < σαのときは収束安定な進化的安定点。)